札幌のエフェクターボード製作屋、ヘルニアエフェクトボードデザイン根尾です。
先日のバンドリハで 9V の電池が最近は ¥800 もする、と話題になりました。
弦や野菜のみならず、なんでもかんでも値上がりしていますね。恐ろしい…。長らくパワーサプライを使っていると昨今の電池事情をすっかり知らないままでした。
ということで今年はエフェクターボードの製作にまつわる基礎知識的な内容を少しずつ書いていきたいと思っています。最初はもっとも重要な電源、パワーサプライについて、です。
使えるのかどうかわからない、というお問い合わせをいただくことがあります。いろいろなケースはありますが、まずは基本ルールを知るのが大切かと思います。
〜基本 #1. センターマイナスか、センタープラスか〜
多くのコンパクトエフェクターはセンターマイナスですが、センタープラスというタイプも存在します。本体にマークでの表記がある場合もあれば説明書にしか書いていないこともあります。
センターマイナスにはセンターマイナスで、センタープラスにはセンタープラスで、ここを間違ってしまうとあっさり壊れてしまいますので注意が必要です。
大事な部分な割に表記は小さい場合が多いです。
海外マニュアルの場合、センターマイナスは “CENTER NEGATIVE” 、センタープラスは “CENTER POSITIVE”、という表記のこともあります。表記の違いで意味は同じです。
〜基本 #2. 多くのパワーサプライの電源供給は DC 9V、センターマイナス〜
電源には AC、DC、という種類があります。コンパクトエフェクターの多くはDC のため、このような仕様になっていますが、イレギュラーも存在します。
たとえば、Digitech / Whammy 1、2、3、4、は AC、DC 不可のため、AC/AC のアダプターでなくてはいけません。これ以外を使うと壊れます。
AC/AC アダプターが必須なモノもある、となるとボードに収めるにはパワーサプライにコンセント口があるタイプでなくてはいけないと選択肢が限られます。
Whammy 5、bass Whammy はパワーサプライの電流値次第で DC 供給が可能です。
ちなみに bass Whammy は本体表記が 9V DC 1300mA になっていますが、マニュアルを見ると 9V DC 265mA です。実際にその数値のパワーサプライで駆動可能です。
単純に版を使い回しているのではないか、大事な部分なのに、と謎です。
〜基本 #3. 電圧(V)、電流(A)の数値はパワーサプライ、エフェクターの両方をチェック〜
コンパクトエフェクターは本体をよく見ると DC 9V とプリントされてあったり裏蓋のシールに記載があったり、何もなかったりします。プリントされていなくとも説明書には記載があります。
現在はインターネットでもマニュアルが見れますので激しく便利です。
パワーサプライの多くは基本 DC 9V ですが、これは多くのコンパクトエフェクターがその仕様のためです。
この表記の場合、DC 9V まで大丈夫、電源供給可能ということです。
パワーサプライ側で 9V、12V、18V など電圧の変更ができるタイプも存在します。
エフェクター側に 9 – 18V など、対応表記がある場合は高い電圧で動作させた方が音が元気に、派手になったりしますが、あくまでエフェクター側がその電圧に対応している場合に限ります。
DC 9V のみ対応のエフェクターに DC 18V で供給すると壊れることがあります。
瞬時ではなくともじわじわ壊れることもありますので、電圧が高い方で間違うとマジでヤバい、という感覚が重要です。
『内部昇圧、18V 駆動』、というエフェクターもありますが、これは文字通り9V 電源を内部で昇圧させるので、パワーサプライからの電源供給はあくまで 9V です。
万が一、18V で供給してしまうと即壊れてしまうので激しく注意が必要です。
例外は歪み系です。
電圧が低い方が好みという方もいらっしゃいます。
パワーサプライ側で電圧を落とせるモノも存在しますので、エフェクターが DC9V でもパワーサプライ側が DC7V など、表記よりも低い分には大丈夫です。デジタルの場合は動作しないこともありますが。
〜基本 #4. 動作に関わる消費電流〜
電流の単位は A(アンペア)ですが、エフェクターでの表記は mA(ミリアンペア) 表記が多いです。
1A = 1000mA です。そんなに食わないモノが多い、見やすい数値にする単位の都合かと思います。
ひとつの例として現行の strymon / FLINT V2 の仕様を見てみます。
・入力電圧 : 9VDC センターマイナス、300mA
メーカーサイトは上記の表記ですが、マニュアルの仕様を見ると 300mA以上 になっています。
これはパワーサプライ側の供給可能な電圧が DC9V で電流は 300mA 以上必要、ということです。
パワーサプライに 9V / 500mA、12V / 375mA、18V / 250mA など、 記載があります。
確実な動作環境として接続するエフェクターの電圧 (V) は同じ数値で、消費電流 (mA) はパワーサプライ側と同数値、またはそれよりも高くある必要があります。
たとえばですが、パワーサプライの電流供給が 250mA、エフェクターの消費電流が 300mA、起動時に高い電流を消費するモノもあるようで、そもそも電源が入らないこともありますが、消費電流よりも供給電流が下回っても動作することもあります。
しかしその場合、本領発揮の音ではないことが多く、か細い音になったり、効果が薄かったりします。
LED も暗かったりしますので、使用するエフェクターの消費電流に合わせてパワーサプライを選ぶ必要があります。
ただ、比較しても問題ない場合もあるので複雑ですが、余裕を持っての記載、セッティングによっては常時 MAX 表記の電流が必要ではないのかも、と思うモノもあります。
どうしてもひとつだけ足りない、という場合、実音で試してジャッジする、ということもあります。
まずは組み込む予定のエフェクターの電圧、消費電流に合わせたパワーサプライを選ぶのが重要です。
〜基本 #5. アイソレートか、非アイソレートか〜
パワーサプライの中でも完全アイソレート、一部アイソレート、アイソレートではない、という仕様の違いがあります。
理想は『完全アイソレート』です。
アイソレートされていないパワーサプライからアナログのエフェクターとデジタルのエフェクターを混在させて電源供給するとだいたいノイズがのります。
対ノイズと考える場合、アナログのみ、デジタルのみでも後に入れ換える可能性もあると思いますので、初めから完全アイソレートのパワーサプライを選んだ方が良いと思います。
また、センタープラスのエフェクターに電源供給したい場合は極性反転ケーブルというモノを使用することでパワーサプライがセンターマイナス DC9V でもセンタープラス DC9V での供給が可能です。
ただし、アイソレートされていないパワーサプライの場合はセンターマイナスのエフェクターにも供給していると一部極性反転させても使用できません。
パワーサプライの DC 供給口を 2 口使って 1 台に供給する Y 字のダブラーケーブルというモノもあります。
消費電圧が高いエフェクターにはボルテージ・ダブラーケーブルで、9V + 9V = 18V 供給が可能に、消費電流が多いエフェクターにはカレント・ダブラーケーブルで、250mA + 250mA = 500mA 供給可能と、オプションアイテムで対応できるのもアイソレートされたパワーサプライの特徴です。
買い換えるのはどうしてもマネーのロスが発生しますので、パワーサプライは初めから良いモノを、というのが対ノイズ面、使い勝手の面でも激しく有効です。まずはここから、というモノでもあります。
〜基本 #6. 電源ケーブルか AC アダプターか〜
大元のパワーサプライの電源供給はアンプと同じ 3 ピンの太めの電源ケーブルで接続するタイプと AC アダプターのケーブル自体が細めのタイプが存在します。
家でしか使わない、という場合は細めでも大丈夫かと思いますが、バンドでスタジオやライブ、持ち回って使用するという場合は耐久性の面から太めの電源ケーブルのタイプがおすすめです。
電源ケーブルを変えることで音質が変えられる、という面も含めて。
トラブルは断線が原因になることが多いです。
電源ケーブルは現場でエフェクターを使用できる、できないに関わりますのでパワーサプライは 3 ピンの電源ケーブル仕様がおすすめです。
〜基本 #7. テスターで実測値を測る〜
これは基本というより応用寄りかもしれませんが、パワーサプライは 9V 表記でも実際にテスターで測ると同じパワーサプライでも供給口によって 9.15V ~9.35V 前後の差があります。
同じメーカー、同じ品番でも実は個体差があります。きっかり全口 9.58V のモノもありますが。
エフェクターボードを製作する時には各エフェクターにより適した電圧の供給口から供給するエフェクターを決めています。高ければいいってものではない、というのが経験則です。
とくに内部昇圧系のエフェクターは高い電圧から供給するとブーミーになってちょっと使いにくい音になったり、10V 以上の電圧がかかると昇圧回路が破損します、と正式にアナウンスしている丁寧なメーカーさんもあります。
この手のエフェクターは仮の例ですが 9.35V のところよりも 9.15V から供給した方が安心、安全、音質的にも使いやすかったりします。
パワーサプライに限らず、AC アダプターを使う場合は9V 表記でも 10V を超えているモノもありますのでとくに注意が必要です。
〜基本 #8. メンテナンスは定期的な静電気除去を〜
ギターメーカーの SCHECTER から CABLE BOMB という製品が発売されております。
シールド類のクリーニング剤、というだいぶ珍しい製品なのですが、クリーニングと同時に静電気も除去してくれる、というモノでこれがとても効果的です。
音が最初よりもなんとなく音がボヤけてきた、スッキリしない、という時にケーブル類をこの CABLE BOMB で拭きあげるとその点が解消されるわけですが、シールド、パッチケーブルのみならず、スピーカーケーブル、そして電源ケーブルにも有効ですので個人的に激しくおすすめです。
ケーブル類のゴム部分、エフェクターボード内のホコリや髪の毛、これらが静電気を帯びることで音質は劣化すると考えております。
ホコリ、ゴミのクリーニングはもちろん、ケーブルが帯びた静電気も除去することで音は蘇ります。少々オカルトっぽい話ですが、私の実体験でもあります。
これは本当にあったことなのですが、ユーザーさんのボードのエフェクター入換時にこっそり全体クリーニングさせていただいたところ、なんか音がクリアになってスッキリしてるんですけど…、と後日ご感想をいただいたこともあったんです…。この下の写真に写っているモノが原因かと…。
エレクトリックな楽器は電気で動くモノなので、重要なのは電力、供給方法かと思います。
パワーサプライを変えたら音が変わった、このエフェクター、こんなに良かったっけ?ってなることは実際、あります。
人間で言うと食糧かもしれません。栄養バランスの良い食事、偏った食事、食べ過ぎは良くないし(電圧が高い)、食べな過ぎも良くない(電流不足)、そんな差がある中、同じことを同じようにがんばれって言っても文句(ノイズ)が出る、その人(エフェクター)が持つ本来のパワーを出せないことってありますよね。多分。
機材の本領を発揮させるにはまずは良い電力供給システム、上質なパワーサプライが必須です。
“ PRODUCTION METHOD, BASED ON ACTUAL EXPERIENCE. “
実体験に基づく製作手法、をモットーに製作、メルマガを書いていきますので今年もどうぞよろしくお願いいたします。
お雑煮食べたい。(今年まだ食べれていない)
最後に真冬でもちょいちょい花が咲く、2m 近くなった最近のおじぎそうを載せておきます。
★ 2022年に製作させていただきましたギタリスト高橋 克 様のエフェクターボードを 「こちら祇園二丁目濱田製作所 様」にてご紹介いただきました。ありがとうございます。HELL NEAR EFFECT BOARD DESIGN 製のエフェクターボードの音がご本人様の演奏で聴けます。
★ 過去製作は Instagram に載せておりますのでチェックしていただけると嬉しいです。
→Instagramはこちら
『全都道府県に製作実績を』を今後の目標にしておりますので、日本全国よりご相談、製作のご依頼、心よりお待ちしております。フォローしていただけると大変嬉しいです。よろしくお願いいたします。